創作鉄道に想いをのせて

 神奈川電気鉄道の「設立」は、当初自作したフリーランスの模型電車の存在理由と性格を確立するための手段でした。そのためには、更に「神奈川電気鉄道」そのものの存在理由と性格を確立しなくてはなりませんでした。ここに神奈川電鉄を取り巻くあらゆる設定付けが開始されたわけです。それは時に困難な作業でもありました。

 しかし、松井久明さん(鯨川地方鉄道/イワキ交通)や会田充彦さん(湘南急行・湘南交通 ※Web上に存在する「湘南急行」とは関係がありません)、そして宮下洋一さん(地鉄電車シリーズとそのレイアウトセクション)といった諸先輩方のすばらしい作品群がそうであるように、車両のみならず、鉄道のある景色を語る作品というのに魅力を感じていましたので、それはむしろ予定通りのことだったのかもしれません(ただ、語り方については全く異なりますが・・)。

 私は、実物の鉄道に関しても私鉄電車、とりわけ地方私鉄が好きで乗り歩いています。そのたびに思うのは、鉄道の魅力は車両のみならず、ダイヤ、施設、沿線風土、歴史といった様々なものであり、またそれらが一つなった時に、更に魅力は増すということです。そして、その由来や理屈を知りたくなるのです。
 特にドメスティックな要素が強い地方私鉄についてはそれが言えるのではないかと思います。
(但し、それは「鉄道」の魅力であって、イコール「鉄道会社」の魅力にはならないことも多い)。
したがって、このあたりにもこだわりたいという気持ちはありました。


 この「模型のための鉄道」、本来はコトデンや豊橋鉄道、伊予鉄道のような「地方中核都市型地方私鉄」のある光景を目指しました。そこで、某地方都市を中心に3路線程度を展開する鉄道を考えていたのですが、何分遠い町だったので事情がわからず、その設定は行き詰まってしまいました。
 そんな時、高等地図帳の関東地方の図版(・・・京王相模原線が多摩センター止まりの頃のものです)を見ていると、平塚から厚木を通ってその山側へ行く路線が浮かんできました・・・それが神奈川電気鉄道の原型になったのです。
 その頃に伊豆箱根の大雄山線や、電化なったばかりのJR相模線に乗ったことも影響しているのでしょう。 関東鉄道常総線や小湊鉄道のような「大都市近郊型地方私鉄」の電鉄バージョンでも似通った雰囲気は出るだろう、と考えたためだと思います。そしてもっと詳細な道路地図の上に線路と駅を書きこみ、ダイヤを設定し、所要車輌数を数え模型を作成し・・・と順調に発展して行ったのですが・・。

 そこに大きな落とし穴がありました。改めて国土地理院の地形図を見ると、ケーブルカー並の急勾配が必要になってしまうことを知ったのです。そして、改めて現地を歩いた結果、路線設定そのものを大幅に変更しました。
こうした地形そのものは、これまた私の好きな京福電鉄越前・永平寺線や叡山電鉄鞍馬線のような「山ゆき電車」を表現するのには、好都合な部分もありましたが、津久井線の設定など未だに納得のいかない部分もあります(特に津久井付近は改編が激しく、TMS発表時から大幅な変更を行っている)。

 とにかく「架空の鉄道を引っ張るなら、その土地のことも勉強するべし」・・と思ったものです。 以降、ささやかではありますが、現地に関する書物を読んだりしました。こういったことは調べれば調べるほど面白いと思うのですが、なにぶん私は東京生まれ・東京育ちで、神奈川県中央部は縁もゆかりもない土地なので、思うようにいかないところも多々あります。

 神奈川電鉄を思いつかなかったら、神奈川県中央部の町に対し、特別な感情を抱くことはなかったと思います。 しかし現在は、このあたりの地名を聞くだけで、かなり気になるものです。
そして、不思議なもので、近年、神奈川県中西部在住の方にめぐり合う機会が非常に多くなりました。

 一方で「もしあの路線の光景とこの路線の光景が一つになっていたら、もっと楽しいのに・・」と思うことが多々あります。神奈川電鉄を使って「各地の地方私鉄が持つ魅力」を自分なりに凝縮して、ひとつに再現したいとも考えています。


 さて、「創作鉄道」というのは、TMS誌に発表したときに使用した言葉です。私なりに定義して使っています。

それは
「ある架空の鉄道が存在するために必要な設定を揃え、意図する鉄道のある景観を作り出すこと」
ということです。

つまり設定を作ることを楽しむのではなく、それを使って何かを表現することを最終目的としています。 しかし、私がどんなにイメージの素材を提供しても、読者の方がイマジネーションを膨らますことができない(=心象風景を伝えられない)ならば、何の意味もないどころか、むしろ苦痛を味わさせるにことになります。 実際、設定が目立ってしまいその上に何かが見えてこないことが多いことを認めますし、それで悩んでいる部分も多々あります。

一方、「架空鉄道」という言葉を使わないのは、それが某パソコン通信発祥の言葉であり、また運用上も模型鉄道を会社に見たてるなど、ようするに「会社を楽しむ」というものだと考えるからです。 同じように「架空の鉄道」ではありますが、その目的・意図する方向は全く異なると感じているので、この言葉は使用していません。

※2002.11 追記
 その後、情勢の変化もあり架空鉄道(架鉄)と名乗るサイトには「会社ごっこ」でないものも多くなり、その中には優れたものも多く存在するようになりました。自発的には使わないものの、架鉄というジャンルで括られることに対する抵抗はなくなったのも事実です。


  神奈川電鉄は、「地方私鉄が好きな人が楽しめる創作鉄道」を目指します。
  もし皆様の心に残る景色を演出できたなら、大変嬉しく思います。

                                2001.1 店主敬白
神奈川電鉄をたずねて 目次へ inserted by FC2 system