もう一つのもと名古屋市交 福井鉄道600形について


                         2005年8月 公園口〜市役所前

 名古屋市営地下鉄の鋼製車が国内の事業者に譲渡された事例が、コトデン以外にもう一つある。それが福井鉄道(福鉄)の600形・610形で、もと名城線1100・1200形である。1997〜1999年に合計4両を導入した。

 譲渡に際し第三軌条集電式から架線集電式への変更でパンタグラフを設置し、また冷房化改造を受けている点はコトデンと共通である。
しかし、コトデンは名古屋市交と線路の幅は同一だが電車線電圧が異なる。一方。福鉄は線路の幅は異なるが電車線電圧は同じである。これが両者の差になって表れている。奇しくも同じ形式を名乗る福鉄とコトデンだが、比較しながら見てゆきたい。

・概要
 600形は両運転台の電動車で単行専用、610形は片運転台の電動車と制御車で2連を組む。主要諸元は以下の通りである。
600形610形(電動車)610形(制御車)
最大寸法(長・幅・高 mm)15580 × 2764 × 410015580 × 2765 × 410015580 × 2764 × 3890
床高さ(mm)1150
空車重量(t)30.330.025.3
定員(うち着席)92(40)100(46)
主電動機(出力 kW×個数)国鉄MT46(80 × 4)-
駆動方式中空軸平行ドライブ-
制御器型式(方式)MMC-LTB-10B (自動加速式、直並列制御)
制動方式SME
福鉄/名市交
車番対比
モハ601←1111(1112)
モハ602←1201(1202)
モハ610←1203クハ610←1204
製造年・製造所1974年(モ601のみ1971年)・日本車両製造

・導入経緯
 福井鉄道は90年代前半に京阪電鉄から京津線用の80形を導入する構想を持っていた。しかし、同線の代替となる京都市営地下鉄東西線の開業が延期になったことなどから頓挫し、代わりに名古屋市交車の導入に至った模様である。また、福鉄は1980年代より昼間時の福武線に単行用車両の導入を模索していたが、それを実現させることになった。

 改造は、当時の福鉄の親会社である名古屋鉄道(名鉄)の車両保守等を行っていた名鉄住商工業が岐阜工場(名鉄岐阜検車区、岐阜600V各線の車両を担当していた)で行った。

 コトデンより半年はやい1997年12月にモハ601を導入し、翌1998年にはモハ602を増備した。しかし15m級の単行では輸送力に問題が発生し、1999年の導入車は両運転台化を取りやめて2連のモハ610+クハ610とした。

・主要機器類
 台車・主電動機・パンタグラフは同じ名鉄系列の豊橋鉄道渥美線1900形のものが流用されている。名鉄モ5200形の車体に中古を中心とする電機品を組み合わせた車両で、1996年の同線の電車線昇圧で廃車になった。
 パンタグラフは東洋電機PT-43で、武生側の先頭に設置された。これは軌道区間のトロリーコンダクターによるポイント切り替えのためで、福井鉄道の標準仕様である。
 台車はDT21B、主電動機はMT46Aで、もとは国鉄101系または111系のものである。福鉄では既に80形で使用実績があった。なお、クハ610の台車のみ豊鉄経由ではなく福鉄の手持ち品を流用している。DT21Bは軸距2100mm・車輪径860mmの一般的な大きさで、名古屋市交の台車(1800mm・763mm)と比べて幅・長さ・高さの全てで一回り大きい。特に幅方向では車体からはみ出している。また、コトデンのように床高さの調整のために台車と車体の間に中間体を挿入することもしていない。
 MT46Aの出力は、本来端子電圧375Vで100kWであるが、架線電圧に合わせて300V・80kWとしている。主回路は変更されていない。
他の主要機器の多くは電車線電圧が同じため、名古屋市交のものをそのまま使用しているが、台車が大きくなったために配置が一部変更されている。
 ブレーキはセルフラップ弁から通常の三方弁に変更し、SMEEからSMEになった。電気制動が残されているのかは不明である。なお、600形は前面にジャンパやブレーキ管などを設けていない。このため連結運転は通常はできない。

・車体
 600形の両運転台化は、もと奇数車の連結面側の窓1枚分の車体を切り落とし、そこに偶数車の運転台附近を切り出したものを接合している。いわゆるブロック工法の類似例である。また、側面は中央の扉を埋め2連の窓を新設している。これも偶数車の車体から短縮の上で流用したものである。610形は連結面の窓を埋めている。
 運転台はワンマン運転用の機器増設に伴いレイアウトが変更されている。この影響なのか前面窓の天地が名古屋市の頃より小さくなっている。乗務員扉などには手すりを新設した。車体幅が在来車に比べて若干狭いため、客用扉には通常のステップが取り付けられた。

 冷房も豊鉄1900の流用で、路面電車用の三菱CU-127(10500kcal/h)を1両に2器搭載した。これは、豊鉄で竣工時の新品である。コトデン600に比べると8000kcal/h少ないが、運賃収受を行うワンマン運転で側面の扉が全て開くのは起終点のみであることから問題は無かったと考えられる。補助電源は屋上中央に搭載している。
 一方で、コトデンは屋上に冷房用のダクトを新設したが、福鉄は車内側に新設している。一般的な方法ではあるが、ただでさえ低い天井がより下がる結果となり、中づりのスペースは左右に追いやられている。また網棚は無いままである。
 車内の化粧板は変更され白基調のものとなった。車体の塗装も従来の車両とは異なる緑色を基調としたものになった。

 なお、福鉄は鉄道線の高床車が軌道線に乗り入れるのが特徴であった。このため、客用扉のホールディングステップや前面の大型排障器が取り付けられ、一種独特の車両となった。この排障器をはじめATS、ワンマン運転装置などは福鉄の廃車車両から流用し、同社の西武生工場で運用前に取り付けている。
 
・福井鉄道クハ610 車内


・その他
 これらの結果、全長は15580mmと名古屋市交時代とは変わらないものの、自重は電動車で30.3tと重くなっている。コトデン600形の26tと比べても重いが、台車の変更と単車で走れるよう機器が集中していることが影響していると考えられる。

・運用
 600形は輸送力の関係で、比較的早くに運用を外れがちになり601は2012年に廃車になった。602は予備車であるが最近は走行する機会はほぼ無い。車体色は200形デビュー時と同じものになっている。
 一方、2連の610形は他車と同様に使われ、2007年には車体色が300と白地に赤・緑と沿線3市及び福井県の花をあしらったものになった。その後、低床車「FUKURAM」の導入にともない2018年に廃車になった。

福井鉄道 モハ601
2005年8月 三十八社
福井鉄道 モハ602
2005年8月 三十八社
福井鉄道 モハ602
2010年8月 北府
福井鉄道 モハ610
2009年8月 市役所前
福井鉄道 モハ610
2015年4月 市役所前
福井鉄道 クハ610
2009年8月 市役所前
福井鉄道 クハ610
2015年4月 市役所前


・参考文献
岸 由一郎「福井鉄道」鉄道ピクトリアル701号 (2001年5月)

・履歴
2023.8.19 作製


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