入線時の改造


 コトデン入線にあたり東京都八王子市にある京王重機整備北野事業所で改造を受けた。
その内容は多岐に渡る。ここでは信号・通信関係の設備変更などを除く事例を取り上げる。




・(左)600・700を改造していた当時の京王重機整備北野事業所(1998年7月)。現在は敷地内の構成は大幅に変わっている。
 (右)600・700・800各車車内にある京王重機の銘板。年の表記は1999年までは和暦、2000年以降は西暦であり、書体も変わっている。


・運転室の取り付け、運転室附近の改造
 譲渡された車両には中間車が多く含まれていたが、これらは全て先頭車に改造された。
 名古屋市交鋼製車の先頭車は、奇数車が藤が丘(東山線)・名古屋港(名城線)側、偶数車が高畑(同)・大曽根(同)側を向いていた。そして、名古屋市交の奇数車・偶数車がそのままコトデンでも奇数車(長尾・琴平向き)・偶数車(築港・志度向き)となった。コトデン入線時に先頭車に改造した車両もこれに準じ、コトデンでの奇数車はもと藤が丘・名古屋港側車端に、偶数車がもと高畑・大曽根側車端に運転台・運転室を新設した。
 新設した運転室は、名古屋市交250形に準じたものになった。しかし、250形の運転室新設は別途作成した運転室附近の鋼体を車体に接続するいわゆる「ブロック工法」なのに対し、こちらは元の鋼体を生かしている点に大きな差がある。そして、外観上はたとえば以下の差がある。

 ・前面窓の支持方式(もと250形は抑え金、新設運転台はHゴム支持)(※1)
 ・乗務員扉の窓の位置
 ・渡り板の構造(もと250形は固定式、新設運転台は可動式) (※2)
 ・運転室と客室の仕切りにある窓・扉の大きさなど。

なお、前面の方向幕は1999年6月に入線した603+604、625+626は寸法が小さく表示窓はHゴム支持だった。1999年11月に入線した627+628、605+606以降は、もと250形と同じ大きさになっている。

 譲渡前から先頭車の車両についても手が加えられた。名古屋市交250形は前面向かって左側の窓上に運行番号表示用の小窓があったが埋められた。前面下部には、ほぼ車体幅いっぱいにステップが設けられていたが、車体中心の渡り板の取付座になる部分除いて撤去された。
 一方700形の種車である名古屋市交300形と1200形は、前面の貫通路に渡り板がもともと設置されていたが、これを大型のものに交換した。また、300形は前面に方向幕が無かったため助手側の前面窓の内側上部に新設した。
 このほか、元の形式に関わらず乗務員扉には手すりが無かったが新設した。

 全車両共通で、他車との併結のため前面にはジャンパ(電気連結器)を新設した。長尾・琴平・志度線瓦町側の前面向かって右側に3本、左側に1本で、コトデンでの標準である。長尾線・志度線の車両の場合、当時は長尾・志度線瓦町側にジャンパと栓納めが設けられており、これは600・700も準じる。
 運転室内の色は、1998年に入線した4編成は名古屋市交のままの薄茶色だった。しかし1999年以降、入線時に運転室を新設した各編成はコトデンの在来車と同じ淡緑色とした。これに合わせたのか、2000年に入線した629、630、721、722は薄茶色から淡緑色に変更した。
 
※1:601はもと250形であるが2011年に運転台窓のみHゴム支持に変わっている。
※2:629、630はもと250形であるが、渡り板は可動式である。

・もと名古屋市交250形の602(左、2006年6月)と、コトデン入線時に運転室を新設した610→804(2007年11月)。
 前面窓の支持方式や乗務員扉の窓の位置に違いがある。窓から見える室内の色にも注視されたい。


・もと名古屋市交250形の629(左:2024年4月)と、コトデン入線時に運転室を新設した603(2023年5月)。
 運転室仕切りの扉、窓の寸法や取り付け方法が異なる。




・渡り板はコトデン入線時の改造で新設したものであるが、もと名古屋市交250形(左上:624、左下:602)は629、630を除き固定式である。
 一方、コトデン入線時に運転室を新設した車両(右上:631、右下:605)は可動式である。
 なお、605は2007年ごろに形状が異なるものに交換されている。601、602も形状が違うがこちらは実施時期・理由ともに不明である。


・床高さ
 名古屋市交通局鋼製車の床高さは低く960mmであった。コトデンの車両とは設定があわないため、台車と車体の間に補助枠を入れ1130mmに嵩上げしている。

・冷房化と補助電源
 冷房化のため屋上は大改造を受けている。もと東山線車両は通風空洞を内蔵した二重屋根のため、上屋根を撤去し、下屋根の上に冷房用の風洞を新設した模様である。このため屋根が一段凹んでおり、雨どい側板が一体化したJR西日本の更新車(N40)と同じような構造になっている。
 一方、名城線車両の場合、屋根は通常構造であったが冷房用の風洞は屋上に設けられた。これは車内に設置すると天井高が低くなるのが理由だと思われる。
 また、補助電源については種車の一部はSIVを搭載していたが、電車線電圧の変更と冷房の電源を賄うため新品で大容量のSIVに交換し偶数車に搭載した。


 
・もと東山線車両の例。肩Rより一段下がって屋根上面があることがわかる(左:602、右:621)。


・車内
 天井は冷房化のため、その吹き出し口およびラインデリアが新設された、これは京王6000系の廃車発生品が改造の上で使われている(参考文献等15)。また網棚が無く蛍光灯は窓上の屋根Rがはじまるあたりに設けられていたが、網棚は新設、蛍光灯は天井に移設され一般的な車内になった。当然ながら種車のファンデリアは撤去されている。
 壁の化粧板や座席のモケットは全て張り替えられて面目を一新している。化粧板は薄茶色から白基調のものになり、非常に明るい印象になった。なお、名城線車両にはロングシートの袖仕切りにスタンションポールが設けられていたが、東山線車両には無かった。これはコトデンへの譲渡後もそのままである。
 暖房も京王6000系の廃車発生品が取り付けられた。座席下の蹴込み板も同様である(参考文献等15)。

 
・上左がもと東山線車両(601 2024年4月)、上右がもと名城線車両(631 2023年5月)で、スタンションポールは後者にしかなく、また網棚が後付けのためそれと一体化していない。なお631は座席のモケットを入線後に変更している。(
詳細)。

・左に参考として名城線車両を改造した福井鉄道ク610の車内を挙げる。車内に冷房用のダクトを通したため、天井が低くなっており、中づり広告を車両の左右に吊り下げている。



・ラインデリアと座席下の蹴込み板は京王帝都6000系の流用。ラインデリアは両軸を片軸にして使用している。


・主回路の機器構成
 名古屋市交東山線・名城線は第3軌条集電式で電車線は直流600Vなのに対し、コトデンは架線集電式で直流1500Vである。台車から集電靴を撤去する一方、屋上にパンタグラフを新設した。
 主回路については、端子電圧300Vで出力55kWの主電動機を2個直列2群(2S2P)に接続し直並列制御していたが、4個直列2群(4S2P)の直並列制御に変更している。主電動機の端子にかかる電圧は375Vと1.25倍になるため、コトデンではその出力を68kWとしている。また主制御器は2両で1つとなり、偶数車からは撤去した。

・主幹制御器(マスコン)
 自動加速車ではあるが、手動加速車(いわゆるHL制御)の在来車と併結し総括制御を行うため、HL制御用のものに交換された。これは、手動加速車ではマスコンの指令通りに1段づつ進段するが、自動加速車は1ノッチが起動、2〜5ノッチでは直列最終段、6〜8ノッチでは並列最終段に自動的に進段する。1982年に入線した1053形(もと阪神、機器類は新製)で採用された方式である。弱界磁は使っていないと思われる。

・ブレーキ方式
 こちらも在来車と併結もため、電気制動つきSMEE(非常弁付き電磁直通制動、二管式または三管式※3)から通称「電磁SME」と呼ばれる方式(電磁弁を付加した非常弁付き直通制動、三管式)に変更された。
 どちらも直通制動に電磁弁制御を付加したものであるが、SMEEはブレーキ弁がセルフラップ弁であるのに対し、電磁SMEはM-18などの直通制動用で三方弁のブレーキ弁に電磁弁制御用の電気接点を設けたものである。電気制動との連携機能は残されている。
 コンプレッサは1500Vで可動なものに交換され偶数車に搭載した。もと東山線の車両は二管式であったため、MRPが追加されている。

※3:二管式はブレーキシリンダを制御する直通管(SAP)、非常ブレーキを動作させる非常管(EP)の2つが編成内に引き通されている。三管式は、これに加えて(コンプレッサのある車両の)元空気溜めから各車に圧縮空気を供給する元空気溜め管(MRP)が編成内に引き通されている。

・左はもと250形の623、右は入線時に運転室を新設した625の運転台である。
 極力同じ形状になるようにしてはいるが、625のほうが操作パネルが若干大き目である。
 ブレーキ弁の一番上の水平方向に出っ張っている部分が電気接点。

・もと300形の723の運転台。600形の運転台に比べると非常に狭いことが判る。


・車体の外装
 当然ながら、外装は名古屋市交の黄色から、コトデンのオリジナルのものに変えられている。
しかし、600・700はファンタンゴレッドとオパールホワイトの在来車と異なり、白・エメラルドグリーン、濃淡2種類のグレーを使った複雑な塗装になった。これは、1997年に開店したコトデンそごうの包装紙を模したもので、俗に「そごう塗り」などと呼ばれる。先に入線した琴平線1100形とほぼ同一だが、600・700は裾に淡いグレーが塗られている点が異なる。なお、コトデン倒産後に入線した613+614のみ、当初より現行の長尾線カラーであった(詳細は入線後の改造>車体塗装の変更を参照)。

・そのほか
 詳細が不明であるが、名古屋市交では側灯が1灯(戸締表示灯のみ)と2灯(戸締表示灯と非常灯か?)の2種類があった。コトデン入線時に2灯に統一された。
 改造の結果、床下機器の配置は外見から判断すると主制御器と空制関係の一部を除き大幅に変更されている。
この点は床下機器の配置を参照されたい。


・履歴
2024.4.21 改造時の京王重機北野事業所および銘板の画像を追加。
     「運転室の取り付け、運転室附近の改造」仕切りと602の渡り板の画像を追加。「車内」の画像を630から601に変更。
2023.8.19 「ブレーキ方式」について記述を修正。
2023.7.24 「ブレーキ方式」についてMRPの新設についての記述を変更し、元空気ダメについての記述を削除。
2023.7. 9 「運転室の取り付け、運転室附近の改造」運転室の取付方法について名古屋市交250形と京王重機施工分の差を追記。
2023.6.18 「ブレーキ方式」に723の運転室の画像を追加
2023.5. 3 「運転室の取り付け、運転室附近の改造」運転室内の色についての記述を追加。
     また渡り板の画像を変更し、記述を変更(629、630が可動式である点、605のみ形状が異なる点など)。
     「ブレーキ方式」に623の運転室の画像を追加
     「車内」にラインデリアと蹴込み板の画像を追加。
2023.2. 5 作製

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